Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
 華月の瞳が、迷うように揺れる。
「その人に恋をしようとがんばってはみますが、私にも、本当に恋ができるでしょうか?」

 ……もう華月のそういう発言には、慣れた。慣れたけれど、この恥ずかしさには慣れない。

「恋は、がんばってするものじゃない。気がつかないうちに落ちているもの、なんだそうだ」
 と、どこかの本だか何だかで、読んだような気がする。

 投げやりに言った俺を、華月がまっすぐ見つめてきた。照れる、という感覚を久しぶりに味わいながら、俺は華月から目をそらした。

「一緒にいると嬉しくなるし、離れていると寂しくなる。そいつのことを考えると胸が苦しくなるのに、それでも一緒にいたいと思う。この先誰かをそんな風に思うようになったら、華月はもう、恋に落ちているんだよ」

 自分で言ってて、なんだかあちこちがむずがゆくなってくる。ちくしょう、子供かよ。いや、今どき子供だってこんなこと真面目に聞いたりしないぞ。だいたい、俺が華月の歳だったころには、もうそんなところすっとばしてもっと先の段階へと進んでいた。俺の周りのやつらも。
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