Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
 華月の父親が頭取を務めるすばる銀行は、昨今の不況のあおりで業績が落ち込んでいた。そこへ、つきあいのある税理士の小暮が、岡崎病院の跡取り息子との縁談を持ち掛けてきたのが去年の暮れのこと。地域でも三本の指に入る大病院とつながりができれば銀行としては安泰と言ってもいい。

 岡崎病院としても、地方銀行とはいえほぼ全国に支店を持つすばる銀行との縁組は願ってもない良縁だ。縁を持つことはそれぞれの利益につながる。本人たちの知らぬ間にとんとん拍子に話は進んで、今日の顔合わせとなったのだ。

「まあ、一之瀬様。そう頭から否定せずに、華月さんの話を聞きましょう」
 憤慨する一之瀬とは反対に、岡崎は穏やかな視線を伏したままの華月に向ける。

「華月さん。私たちは、君にこの結婚を無理強いする気もないし、断ったからと言って怒ることもないよ。だから、君の本音を話してほしい。想う人がいると言ったね? その相手とは、もう将来の約束でもしたのかい? 学校の同級生かな」
「あなた、華月さんは女子高です」
 こっそりと横から岡崎夫人がツッコミをいれた。
「いえ……」
 華月の脳裏に、穏やかな笑顔が浮かぶ。
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