Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
「あきらめません。あきらめなければ、夢は叶うのでしょ?」
 その答えに、圭介は満面の笑みを浮かべる。
「華月なら、そう言うと思った」

 そして、足元の池に視線をおとす。そこに泳ぐ赤い鯉を眺めながら、圭介は独り言のように続けた。

「彼女以外なら、女なんて誰でも同じだと思った。だからこの結婚の話が出た時も、もうそういう歳だし相手が一之瀬頭取の娘ならまあ妥当かな、と断る気もなかったんだ」

 そう思ったから、圭介も、写真も釣り書きも見なかった。ただ小暮に、華月という名前と、その子が高校生だということを聞いて、若いのにかわいそうだな、と思ったくらいだ。

「あいつは……自分ですら持て余していた俺の中のいい加減な部分を、あっさりと当たり前の顔して受け入れてしまう女だった。どんな部分を持っていても、彼女にとって俺は俺で……それはひどく、居心地がよかったんだ」
 ゆっくりかみしめるようなその言葉を一言も聞き漏らすまいと、華月は黙って耳をかたむける。

「彼女が、好きだった。けれど、奪ってしまおうとは思わなかった。その男が親友だから、だとずっと思ってたけど、そうじゃなかったんだな。夕べ華月に会わなければ、俺は、彼女を愛していることに気づかなかったかもしれない」

 ぎり、と無意識のうちに、華月は唇をかみしめてうつむいた。
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