最後の男(ひと)
『好きな子ができたから別れてほしい』と、たった一行、その時の表情も空気感も何もかも感じられないまま、メールで別れを告げてきた最低な男。

一方的に別れを切り出されてから2年後。偶然再会したのを機に、士郎は私をセカンドへと貶めた。元カノという呼称も、今は相応しくないほど爛れた関係を続けている。

再会した日の週末、ふらっと私の部屋のインターフォンを押したのは士郎だった。

連絡先の交換をした訳でもない。住まいを教えた訳でもない。
まだ同じマンションに住んでいるだろうと踏んだのか、試しに来てみただけなのか、予期せぬ訪問に気を許してしまった私に隙があったのかもしれない。

離別から2年経過していたし、自分の中では既に過去のことだった。

ただ、ちょうど前日に仕事でした些細なミスを引き摺っていた。そこに、良いも悪いも昔の私を知る男がするりと忍び込んできた、というだけの一夜限りで終わるはずの関係だったのに、それを一度きりで終わらせなかったのは士郎の方だった。

平気な顔をして、恋人の話をする無神経な男。
こんな男と付き合っていたのかと、逆に冷静になれた。

別れを切り出される前の数か月間は、会う度電話する度に言い争いになった。

営業職の私と事務職の士郎では勤務形態がまるで違うから、仕事と俺のどっちが大切なんだよ!と、まるで女が吐くようなセリフを彼の口から聞かされたときには、正直幻滅したりうんざりしてしまった。

だから、後はどちらが先に言い出すかだけで、遅かれ早かれ別れが訪れるのは予感していた。

私は、仕事よりも恋人を取れるような、可愛らしい女にはなれなかった。

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