最後の男(ひと)
「喜んでくれて、俺も嬉しいよ」

先輩は、私の顔を覗き込むと、額に、瞼に、頬に、最後に唇に優しいキスをしてくれる。

「え……っ? ちょっ、先輩?」

胸いっぱいに広がる幸せを噛み締めていると、先輩が体重を圧しかけてきて、ベッドに逆戻りする。

「一香が想像以上に可愛いのが悪い。2カ月我慢するから、やりだめさせて」

「え? 先輩、また休暇取れたんですか?」

「休暇じゃないよ。あと一年に短縮するって話をさらに2カ月縮めたんだよ。だから、次の帰国が正式な帰国だ。まだ決まったばかりだから一部の人事しか知らないけど、早く伝えたくて週始めに手紙に書いて送ってある」

「そんな大切なこと、手紙じゃなくてすぐに教えてくださいよ! って、実は私も今回の来ちゃったの件はエアメールで送ってあるので、2、3日中には着くと思います」

「一香~。おまえだって人の事言えないだろ。手紙届いた上で会えなかったら、尚更心配するし」

「その時は、さすがに携帯使いましょうよ」

「確かにな。……で、どうする?」

「……美術館は諦めます。でも、ちゃんと休憩挟んでくださいね」

「それは大丈夫だ。飲み物も食べ物も、数日籠れるくらいにはストックしてある」

「仕事にはちゃんと行ってくださいよ」

「それも、さっき出たついでに調整してきたから問題ない。一香をちゃんと空港まで送り届けるから安心しろ」

安心どころか、油断も隙も見せられたものじゃない。
いくら日中に相応しい健全な笑顔を見せられても、次の瞬間には、飢えた瞳で私を食べつくそうとするくせに。

仕事人間の二人だから、きっとこれがハネムーンになる。
そう思えば、カーテンの隙間から差し込む太陽の光に後ろめたさを感じても、このベッドの上でだけなら溺れてしまうのも悪くはない。



Fin
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