7年目の本気
各務グループの御曹司かぁ
 (次男坊らしいけど)……。

 この場に馴染んで当たり前だ。

 彼 ―― 匡煌さんは生まれながらにこっちの
 ステージの人だったんだから。

 私らみたいな庶民とは本来住む世界が違ったんだ。

 !!――住む世界が違う……それを改めて認識し、
 胸の奥がチクリと傷んだ。

 や、やだ、私ってば、何今さら傷ついてるんだろ。



『――こんな所にいたのか』


 私は慣れないパーティーの人混みで火照った体を
 クールダウンさせながら。
 人気のなくなったテラスで眼下へ広がる
 素晴らしい夜景をぼんやり見ていた。


「ちょっと、人混みに酔っちゃったみたい……」


 匡煌さんも私の傍らへ並んで立った。
 眼下の夜景を見下ろして。


「うん。なかなかの眺めだ」

「え、えぇ、そうですね」


 予期せずして彼とこうして2人きりになって、
 さっき圭介さんに教えられた事が不意に頭の中へ
 思い浮かんだ。


 ”――10代の後半で実家から飛び出して
  しまってね”


「あ、あの、どうしてご実家を出られたんですか?」


 瞬間、 彼の瞳に暗い影がさした。


「――圭介が言ったのか」

「ご、ごめんなさい、立ち入った事を……」


 彼はしばし、とても哀し気な視線でじっと前方を
 見ていたけど、いきなり私の腕を強く掴んで
 自分の方へ引き寄せた。


「ま、匡煌さん ――っ!?」

「…………」

「知りたいか? 取り繕ったええ格好しーの俺ではなく
 素の宇佐見匡煌を」

「えっ ――」

「知りたいなら教えてやる。だが、全てを知りたいなら
 それなりの覚悟を決めろ」


  こ、こんな匡煌さん初めて見る……
  こ、怖い――っ。


「そんな、覚悟だなんて……」

 重苦しい静寂が私達2人を包み込む ――。

「すまん。俺も酔ったみたいだ」
「(うそ、今夜はお酒なんか一滴も飲んでない
  くせに)……」
  
「そろそろ帰るか」

  
 と、匡煌さんは唐突に踵を返し無言で
 足早に出入り口へ向かい、戸口に差し掛かった所で。


「置いてくぞ」


 私も慌てて彼の後に続いた。
< 50 / 80 >

この作品をシェア

pagetop