7年目の本気

 ホテルの地下パーキング。

 一隅で、私は壁に追い詰められた恰好で
 匡煌さんに口付けを迫られた。
 
 (俗に言う”壁ドン”ってヤツ)


「いきなり、こんなの反則――」

「して欲しそうだったから」


 恥ずかしさにぽっと火照った顔は伏せがちに
 匡煌さんを押し返した。


「じゃ、して欲しくはなかったか」

「もうっ、いけず……」


 匡煌さんはふふっと笑って
 私のおでこへチュッとキスを落として。


「そうあからさまにビビるな、
 何も捕って喰おうってんじゃない」


 と、私から離れ自分の車のロックをリモコンキーで
 解除。


「送って行く」


 私はその匡煌さんの背をぼんやり見つめ
 心の中でそっと呟く。


  ”何か、余裕よねぇ……”



 匡煌さんの車で実家まで送ってもらう途中の車内。
 
 私は車窓に映る運転中の匡煌さんの凛々しい横顔を
 見つめながら考える。


 ”ああゆう時、年の差と今さら縮めようもない
  ジェネレーションギャップを痛感してしまう。

  私なんか、出逢って以来ずっと彼の一挙一動に
  振り回されっ放しなのに……さっきのキスだって、
  そう。
  
  だから、べべ、別に不安ってわけじゃ……”


 ===  ===  ===

「知りたいか? 取り繕ったええ格好しーの俺ではなく
 素の宇佐見匡煌を」

「えっ ――」

「知りたいなら教えてやる。だが、全てを知りたいなら
 それなりの覚悟を決めろ」


 ===  ===  ===


 覚悟を決めれば、匡煌さんと私の関係も進む――?

 自分が思い浮かべた”関係”という単語に、
 かぁぁぁっと頬が染まる。

 関係って、私ってば、何考えてんだろ……。
 自分の心の中だけで勝手に妄想全開状態になりかけ、
 ますます赤面。


「――さっきから1人で何やってる?」


 笑い含みの問いかけと共に、ニュッと伸びてきた
 左手でクシュクシュと頭を撫でられた。


「あ、べ、別に何も……」


 そうやって慌てて否定する様も彼にとっては笑いを
 誘うものだったらしく。
 苦笑する彼の目尻には生理的な涙が滲んでた。


「ホ、ホントに何でもないんだからぁ」 
 
「そうか そうか ―― 分かってるって」

「もう……全然分かった風じゃないし……」


 *折すれば匡煌さんのマンション、
 このまま直進すれば私の実家方面へ向かう
 交差点の信号で停まった時、
 フッと彼が真顔になった。 


「……もう少し、付き合えるか?」

「え ―― あ、うん」

「じゃ、先、俺のマンションに行くから」

「……」


 基本的にいつもちょっと皮肉っぽい笑みを浮かべた
 匡煌さんが急に真顔で黙り込む。
 
 マンションについて、エレベーターに乗っても
 なんだか今の匡煌さんは”話しかけるな”オーラを
 まとっているようで、いつもみたく気軽には
 話しかけられない。
 
 真っ直ぐ前を向いたまま、何かを考え込んでいる
 様子だったのが気がかりだった。

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