彼は私の全てだった
死ぬほど愛して
気がつくとシュウは私の顔を心配そうに見ていた。

「ミチル、大丈夫か?おい、しっかりしろ!」

その声で私は現実に戻る。

シュウとなら死んでもいいと思ったが
意識が戻ると死ななくて良かったと思ってる。

シュウは私の首にかけた手を
ゆっくりと下ろして今度はその手で優しく抱きしめる。

「ごめん。マジでやっちゃうトコだった。

何で抵抗しないんだよ。

そういうトコ、マジ引くわ。」

私は何も言わずにシュウにギュッと抱きついた。

シュウの体温で生きてるって感じる。

「私はシュウのモノだから。

何しても構わないよ。」

シュウは私を見つめて優しくてキスしてくれる。

髪を撫でて、その手を背中に下ろしてく。

「ミチル…あの時だけど…」

私の目を見てシュウはそこまで言いかけて言葉を飲み込んだ。

「あの時…どうしたの?」

「何でもない。」

シュウはもう少しで心を開きそうだった。

このまま黙らせてはいけないと思った。

「シュウはあれからどこに行ったの?

私はもっとシュウとちゃんと向き合いたい。」

シュウはそんな私を信じてくれたのか話を続けてくれた。

「俺の母親のこと覚えてる?」

「うん。綺麗な人だった。」

私はシュウのお母さんの真っ赤な唇に憧れて
あの当時、赤いグロスを買って付けてみた想い出があった。

高校生の顔に赤は似合わなくて
あのグロスは今でも使わずに私のドレッサーの引き出しの奥に入ったままだった。

「オレね、あの人に捨てられたの。

あの人、昔からだけど帰ってこない日が多くて…
ある日突然全く帰って来なくなった。

しばらくして長野の叔父さんが迎えに来て
あの人が死んだって聞いた。

だから学校には家庭の事情で長野に転校するとだけ言って
誰にも言わずに去った。

色々聞かれたくなかったから。」

「お母さん、どうして…?」

「どうしてだと思う?」

聞くのが怖くなって…私はそれ以上聞かずにシュウを抱きしめた。

シュウが心を閉ざしてしまった理由は
お母さんの死に隠されていると思った。








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