彼は私の全てだった
epilogue〜彼女は俺の全てだった〜
2人の遺体は亡くなった翌日、
ホテルの従業員がチェックアウトしない2人を不審に思って部屋を訪ねて発見された。

カビ臭い古いラブホテルの一室で2人は重なり合うようにして亡くなっていた。

男の方が頸動脈を切って亡くなっていた為
あたり一面、血の海だった。

「うわー、ひでぇな。
手配中の小泉柊で間違い無いな。」

刑事の瀧川勇作が血に塗れた男の顔を見ながらそう言った。

「女の方は先日拉致された柿沢ミチルですね。」

小泉柊は柿沢ミチルを拉致し強姦した上に絞殺、
自分はナイフで首を切って自殺した。

それが2人を最初に見た刑事が出した答えだった。

しかし瀧川は二人の死に顔を見てなんとなく違う印象を受けた。

シュウとミチルの死後、シュウの所持品からミチルの首にかかっていた鍵が近くのトランクルームの物だと判明し、瀧川はそれに立ち会った。

そこには小泉柊の母親の位牌と
クッキーの缶に入った何通もの手紙が入っていた。

手紙の宛先は全て柿沢ミチル宛で
切手に消印はなかった。

「これ、小泉が被害者に出そうとして出せなかった手紙みたいですね。

害者に随分前から執着してたんですね。

てゆーか今時手紙かよ。

珍しく古風なヤツなんですね。

ブツは見当たりませんねえ。」

後輩の刑事がその缶の手紙の中味も読まずにそう呟いた。

「捕まった時にマズイと思ってトイレにでも流したんだろ?」

瀧川はその中の一通を開いて読んだ。

そこには小泉が生前、愛していた柿沢ミチルに本当の想いを綴った言葉が連なっていた。

「愛してたんだなぁ。」

そう言ってもう一通、もう一通と封を開けた。

全ての手紙は小泉柊がミチルへの切ない想いと
母親の自殺の後、ミチルを捨てて消えてしまった事についての弁解と謝罪の文字で埋められていた。

そしてミチルへの想いは何年にも渡って書かれていた。
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