彼は私の全てだった
「亡くなる前に電話して来たんです。

ゴメンって泣きながら…
シュウくんと逝きます…って…

シュウくんとは高校の時、少しだけ付き合っていたのは知ってました。

でもある日、突然何も言わずに転校してしまって…

娘はひどく傷ついたんです。

まさか再会してこんなに深い仲になってるとは知らなかった。」

「では娘さんはあの男に殺されたんじゃないと?」

「それはわかりません。

でももしかしてシュウくんは1人で死のうとしてたんじゃないでしょうか?

多分、娘が無理に連れてって欲しいと言ったんでしょう。

電話で言ってましたから。

彼が私の全てだった…と。

最初はどこかへ2人で逃亡するのかと思って必死で止めました。

でももう離れたくないと泣いて…謝りながら電話を切ったんです。

その時なんとなくわかりました。

娘はもう帰ってこないと…。」

瀧川はポケットからハンカチを渡そうと思って出したのだが
そのブルー系のチェックのハンカチがあまりに皺くちゃでそれを躊躇った。

「でも娘さんには結婚間近の恋人がいましたね。」

「中村さんですね。

彼には申し訳ない事を…」

父親は娘が死ぬ事をわかっていた。

そして瀧川はこの少し後に東京から駆けつけた婚約者である中村という男に逢った。

「少しお話しを伺っても?」

中村は彼女の遺体を見て肩を落とし、泣くのを堪えていた。

憔悴しきった顔を見て彼女が居なくなってから
中村はほとんど寝てないのだろうと想像がつく。

彼もまたこの被害者を深く愛していたのだと瀧川は思った。








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