ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「別に帰れない理由がある訳じゃないの。ただ実家に居るとね、みんなが優しくしてくれるから居心地良すぎちゃって、こっちに戻って来たくなくなっちゃうだけ…」

いつになく愛らしく肩をすぼめる広海君。

一人ぼっちの部屋に戻ってくるのは寂しい、って事か。

わかる気はする。

「でもね、それも去年までの理由。今帰っても、もう昔みたいに兄弟に構ってもらえなくなっちゃったし」

眉をくねらせる広海君。

「ん?」

どうして?

と、広海君が宙を見上げたあと、フッと目を伏せた。

「…私ね、兄5人の末っ子なの」

「えっ、兄5人!」

それはスゴイね。

「うん。だからいっつもお兄ちゃんが側にいてくれて、いっつも甘えてた。ワガママもたくさん聞いてくれたし」

なるほど。

兄5人に小さい頃からワガママ放題可愛がられてたら、そりゃあこうなっちゃうだろうな。

「でも去年、すぐ上の一番仲が良かった兄も結婚しちゃって、もう昔みたいに甘えられなくなっちゃったんだ」

立ち上がって僕の後ろに廻る広海君。

と、背中から僕の首にしがみ付く様にガバッと抱き付いてきた。

(ん…)

おもいっきり胸が背中で押し潰されてるよ。
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