* KING+1 *
部屋に入り、ドキドキしながら先輩の様子を伺うけれど、特別変な空気にもならずに、こっちは身構えてたから、すごく疲れた。


「ほら 早くシャワーして来い。」


先輩が先にシャワーを終え 髪をタオルで拭きながら私に言う。


先輩のシャワー後のアンニュイな妖気を含み捲った姿は 何度見ても慣れない。


見たら負ける───。

と思いながらいつも急いでバスルームに逃げ込む私は、お子様丸出しで…だから先輩とずっと一緒に暮らしているにも関わらず 手を出されないんだ。


ああ また落ち込むけれど、こればっかりは どうしょうもないな…と諦め、気持ちもスッキリとするシャワーで 雑念と一緒に洗い流した。



部屋に戻ると…



「髪を乾かすから ここに座れ。」



ソファーにポスンと座らされ、ドライヤーで優しく髪を漉きながら乾かしてくれる。

いつもと同じ。先輩は通常通りで、私だけが意識しておかしな事になっているだけだ。



「ん?どうした杏?元気がないみたいだな?」


どうして今?

その優しさはいらない。気付かないでスルーして欲しかった。


「先輩が優しいから、おかしくてびっくりしてたんですよ。どうしたんですか?何か裏があるんじゃないかって、怖くて怯えていたんですが…」


心のバリヤを気付かれたくなくて わざとそんな風に言う全然可愛くない私。


「気のせいか…。今日はデートで疲れたんだろ?早く寝ろよ。おやすみ。」


頭をポンポンして先輩は自分の部屋に入って行った。


先輩こそどうしたの?私の気持ちが溢れて止まらなくなる前に どうしたらいいか、誰が答を教えて欲しい。気持ちを押さえる方法がわからない。助けて…




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