りせい君の理性が危うい瞬間
「利生君にも、ちゃんと優しいところあるんだね」
嬉しさついでに出た、本音が。 少しだけ私を、意地悪にさせる。
「ははっ、俺はいつも優しいじゃん?何言ってるの羽子」
乾いた笑い声、それが余計私をムキにさせた。
「全然優しくないよ。私が体育倉庫に閉じ込められた時も助けてくれなかったし。 教科書だって、ひどい落書きされてたの見ても、安藤さんに怒ってくれなかったじゃん。」
「怒る必要ある?別に俺自身に害があるわけでもないのに。
それに羽子、“助けて“なんて一言も言わなかったでしょ?
自分から助けを求めない奴を助けて、なんの得があるの」
授業で学ぶ道徳とは気が合いそうにない利生君が、冷たい言葉を私に突きつけた。
「利生君は...私の事好きなんじゃないの?」
彼女でもないくせに。不安がるようにそう聞くと。
「好きだよ?好きだけど、別に優しくする必要なんかないし」
「...っ」
「なに?羽子。もしかして俺の気持ち利用しようとしてる?」
ーーダンっ!と利生君が持っているフォークが、オシャレな形に切られていた野菜を貫いた。
「俺よりよっぽど、羽子の方が性格悪いんじゃない?人の恋心利用しようとするなんてさっ」
「...」
「でも。そこまで言うなら助けてあげてもいいよ」
利生君が人差し指を自身の唇に当てた。
「羽子からキスしてくれるなら、助けてあげる」