次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
従者たちの後ろに、薄汚れた黒い外套を纏った男が一人立っている。
なぜ今まで気付かなかったのかと思ってしまうくらいに、佇む男の姿は異様だった。
濁った瞳がリリアに向けられた瞬間、感情のうかがえなかった男の顔に一気に怒りが浮かび上がってくる。
それはほんの一瞬の出来事だったが、リリアを震え上がらせるには十分過ぎるほどの衝撃だった。
前へ前へと突き進んでいくセドマに合流する形でアレフも共に歩き出し、そして廊下の角を曲がったところで緊張を解くようにふうっと息を吐く。
「セドマさん、すみません! 俺が足を止めさせてしまったばかりに」
「いや……それより、エルシリア様が連れているあれはなんだ。薄気味悪い」
心なしか進む速度を落としながら、セドマは今しがた曲がったばかりの廊下の角を振り返る。
今となってはその姿も確認することは出来ないのだが、アレフはすぐに誰を指しての言葉かを理解したようだった。
「それはきっと、オーブリーのことですね。彼はエルシリア様のお気に入りの呪術師ですよ」
「呪術師か、なるほど」
リリアもセドマと同じ気持ちだった。