次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
そんなリリアにはお構いなしに先陣を切って歩き出したアレフの靴音が耳に届いたのか、ほぼ同時にオルキスとユリエルがアレフへと顔を向ける。
そのあとすぐにオルキスはアレフよりも少し後方で立ち止まっているリリアを見つけ、僅かに表情を和らげた。
「待っていた」
待ち遠しかった。オルキスの声と表情からそんな気持ちが伝わり、リリアが微笑みを返した時、ユリエルが「オルキス様」と静かに名を呼んだ。
「今から、あの娘とどこかにお出かけになるのですか?」
「あぁ」
「そうでしたの……花嫁候補は彼女だけではありませんわ。次はわたくしを誘ってくださいまし」
冷静に喋ってはいるが、言葉の端々からは憤りが滲み出ている。
しかしオルキスは少しも動じることなく、冷ややかに返事をした。
「候補など必要ない。似た容姿がいくつ並んだところで、どれも本物には敵わないのだから。彼女を自分の傍に置くことが出来なければ、俺には何も残らない」
噴水の流れ落ちる微かな水音に混ざって聞こえたオルキスの言葉からは、強い意志が感じられた。
と同時に、リリアの胸が震えるほどの甘美さをも含んでいた。
「……失礼いたします」