ただ、彼女の幸せを
彼女との出会ったのは高校2年の春。
彼女は同中の1個下の幼なじみ(男)のクラスメイト。
たまたま、同じ電車に乗っていたらしく彼女の方から幼なじみに声をかけてきた。それ以来よく3人で話すようになった。
後輩というよりは、友達の友達といった感じ。彼女にとってもそうだったようで、俺に対して'先輩'とは呼ばなかった。
それまで、あまり女子と関わったことがなかった俺は、彼女の明るさに、気さくさに、どんどん惹かれていった。
たぶん、これが俺の遅い初恋。
でも、彼女には当時彼氏がいたし、なにより俺には高嶺の花。
その頃の俺は科学オタクで、それ以外になんの取り柄もなかった。その事で、進路にも悩んでいたし、自分に自信も持てない。俺の代わりなんていくらでもいる。
本気でそんなことを考えていたし、自分の価値をどんどん見失って落ち込んでいく日々。
そんな中で、彼女の笑顔は俺にとっては光だった。
俺なんて、彼女にとっては知り合いの1人。そんなことは、わかってる。
進路指導の帰り道、たまたま彼女に会った。
「元気ないよ?どうしたの?」
心配そうに話しかけてくる。
気持ち的に不安定になっていた俺は、ぽつぽつと彼女に悩みを打ち明ける。
俺が話している間、彼女は相づちをうちながら聞いてくれていた。
「うまく言えないけどさ。」
俺が話終えた後、彼女が口を開く。
「まさはまさでいいんじゃない?
科学しかないっていうけど、科学があるんだよ。それってすごいことだと思うよ。
それに、代わりはいるっていうけど、私はまさに出会えてうれしいよ?」
そう言って、優しく微笑う。
'まさ'
本名は 相田雅史。家族も友達も名前か名字で呼ぶ。
だから、彼女だけが呼ぶ俺の名前。俺の胸に優しく響く。
名前を呼ばれる度に愛しさが募る。
「悩むだけ悩んだらいいよ。でも、自分のことは大切にしてね。」
彼女はそう締めくくる。
「聞いてくれて、ありがとな。」
'科学がある''出会えてうれしい'
彼女が、俺の存在を認めてくれた気がした。
彼女が認めてくれた俺の存在を、俺自信も認めたくなった。