あしたの星を待っている
「ごめんね、迷惑かけて」
「別に。目の前に倒れてる奴がいたら助けるだろ、普通」
「うん、だけど、それが私だなんてね」
「どういう意味?」
ゆっくりこちらを向いた瑠偉くんは、瞬きひとつせず私を見つめた。
その瞳があまりにも真っすぐで返事に困っていると、後ろから来た人に、ドンッとぶつかられてよろけた。
無意識のうちに足を止めていたようで、通行の邪魔になっていたらしい。軽い舌打ちが聞こえた。
「大丈夫か?」
「あ、うん。平気平気」
「お前、すぐそうやって何でもないふりすんのやめろ。見ててイライラする」
「なっ、私がいつ、」
何でもないふり……なら、してるか。
家でも学校でも親でも友達でも彼氏の前でも、何事もなかったような顔をして平然を装っている。
でもそれは、誰にも心配掛けたくないからで、私さえ堪えていれば済むことじゃない。
我慢できるから我慢しているだけなのに。
イライラするなんて言われたくない。
「お前、本当に幸せなのか?」
「な、そんなの関係ないでしょ、ほっといてよ」
「ほっとけるわけないだろ! こっちを向け!」
持っていた鞄を、ぐいっと引っ張られた。
頬が熱くなるのと同時に、責められたような気持ちになって頭に血がのぼる。
「瑠偉くんこそ、どうなの? 」
「は?」
「黒沢さんと付き合っているの?」
「何んだよ、急に」
「気になったから聞いたの」
何でもないふりするなと言ったのは、そっちだよね。
怪訝そうに眉をひそめる瑠偉くんを、負けじと睨み返す。
やがてふっと息を付いた彼は、
「それこそ、お前には関係ない」
と、背中をこちらに向けた。