愛は、つらぬく主義につき。
 ウチは、宴会とか大人数が集まる時は母屋じゃなくて、離れの別棟って決まってる。
 離れとは言ってもゲストハウスみたいなもので、厨房もあれば洗面、トイレ、お風呂も完備。酔いつぶれて帰らない人用に、こじんまりした客間も準備してある。
 畳敷きの広間はふすまを取り払えば、全部で五十帖くらいにはなるのかな。
 広縁からはおじいちゃんご自慢の石庭が望めて、春は桜、秋は紅葉、風情のある眺めになる。もちろん定番の錦鯉なんかもちゃんといてね。池じゃなく、小川を造って石橋まで架けた渾身のこだわりっぷり。鹿威しの小気味いい音色は、ゆかしい和を感じてあたしも大好き。

 
「・・・宮子か?」

 案内係の先導で、玉砂利が敷かれた竹垣沿いの小道を歩いてたら。後ろから聞き覚えのある声を掛けられ、足を止めて振り返った。
 
「仁(じん)兄!」

 パッと笑顔になるあたし。
 そこに立ってたのは、仁兄こと木崎仁(きざき じん)。
 瑤子ママが哲っちゃんと結婚する前にシングルマザーで生んだから、遊佐とは半分血の繋がりのない、五つ上のお兄さんだ。ちなみに木崎はママの旧姓。

 グレーの三つ揃いに黒いシャツ、紫色のネクタイは古希に合わせたのかな。
 髪を後ろに撫でつけて銀縁の眼鏡かけた姿は、今どきの言い方するとインテリやくざ? こう、シュッとした雰囲気で、割りと線が細くて整った顔は、ちょっと冷淡そうにも見えちゃう。
 本家の組下で、自分の組も持ってる『出来る』若手の幹部だって。そのくらいの噂はあたしの耳にも届く。
 案内のお兄さんは仁兄を目に留めて、慌てたように直立不動で挨拶してる。

「こいつは俺が連れていく。持ち場に戻っていいぞ」

 そそくさと来た道を戻ってくお兄さん。下っ端さんは大変ね、イロイロ。
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