愛は、つらぬく主義につき。
「・・・なんだお前、また一人で来たのか?」

 腕を組めって仕草をされたから。遠慮なく仁兄にエスコートしてもらい、ヒールだと少々歩きづらい砂利道をゆっくり歩く。

「実家に帰るのにいちいち迎えに来させたら、榊が可哀そうだし」

 あたしがわざと軽口叩くと、溜め息を吐かれた。

「そうやって下手に気を回すほうが、親父や総長の心配を増やす羽目になるんじゃねぇのか。真の足なんざ、いつまで気にしてどうする」

 ・・・・・・相変わらず。ストレートな物言い。兄弟そろって、ほんと容赦ないんだから。

「遠慮なく甘えてやりゃいい。そうやって消えてくもんだ、負い目なんてのはな」

 あたしよりも頭一つ分以上、高い背の隣りを見上げると。口許に薄い笑みが滲んでた。
 
 なんだかねぇ。ずっと一緒にいた訳でもないのに、仁兄にはお見通しなのかな。
 ちょっと切なくなって腕にすがるように甘えてみた。

「・・・ありがと。仁兄」

 

 
 離れの玄関口では念のため、セキュリティ上のチェックを受けて。
 中に入ると結婚式場みたいに受付まであった。招待状と引き換えに、紫色の花をかたどったリボンを付けろってことらしい。

 仁兄は記帳してから、ご祝儀なのか、のし袋まで手渡してる。・・・なんか結構ぶ厚いカンジしたケド。この業界もイロイロあるからねぇ、袖の下的なトコもあるんだろうなぁ。
 そんな埒もないことを思いながら、受付を終えた仁兄とそのまま行こうとしたら。受付のお兄さんが訝しそうにあたしを見やって、仁兄に問う。

「・・・お連れのかたは、どちらさんで?」

 二人で一瞬、顔を見合わせた。
 お兄さんはあくまでマニュアル通りに。

「申し訳ありませんが、招待状の無いかたはお通しできませんので」

 ・・・うん、そーだよね。アナタの対応は至極マトモです。多分っていうか、ほぼアナタは悪くないよ。あたしの顔を全員が知ってるワケじゃないのは、承知してるからね。

「ああ、じゃあ」

 面倒だから哲っちゃんを呼んでもらおうと、あたしが言いかけたのを。仁兄が一歩前に踏み出し、眼を眇めて低く相手に凄んで見せた。

「・・・その腕章、三の組か。相澤代理とは知らない仲じゃない。今回の不手際は見逃してやるから、会長の孫娘の顔と名前くらい憶えておくんだな?」

 その瞬間、青ざめて顔を引き攣らせたお兄さんには、かなり気の毒しました・・・・・・・・・。



 そのまま靴で上がれるように、小上がりからレッドカーペットならぬパープルカーペットが伸び、広間に足を踏み入れたらダークなスーツのオジサマがうようよ。ポツポツと小紋の装いのお姐さんの姿も。

 今回の趣向は『茶会』なのかな。大皿料理やお酒が並ぶ、幾つかのテーブルを囲むように、紫の毛せんを敷いた縁台を配置してあって。広縁を左手に正面の上座には屏風を飾り、野点(のだて)傘まで立てて演出を凝らしてる。

 みんな、好きに座ったり立って談笑してたり。おじいちゃんの登場までどうやらあと少しみたいだった。

 畳敷きをフローリングカーペットで応用したのとか、バイキング形式とか。こういうアイデアを考え付くのは、やっぱり遊佐よね。笑みがほころぶ。

 純粋におじいちゃんを祝いたい人ばっかりじゃないのも現実だろうけど。少なくとも家族や、おじいちゃんを敬愛してるみんなの心が籠もった会には違いないよね。
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