愛は、つらぬく主義につき。
 朱色のテーブルクロスを纏った上には、白磁の大皿。キャビアが乗ったカナッペとかテリーヌとか、越前カニとかカラスミとか。和洋折衷の高級食材がこれ見よがしに並んでる。料理って言うよりお酒のつまみ? 
 これ、あとで普通にお腹空くパターンだなぁ。
 適当にお皿に取り、空いてる縁台に腰掛けて仁兄と二人。

「そう言えば瑤子ママは? 裏方さんやってるの?」

「ああ。配膳を仕切ってんだろう」

 料理やお酒の追加だのそういう目配りは、クラブのママ歴十年クラスの瑤子ママの采配が光る。あのおばあちゃんが、口出ししないで任せてるのはママだけ。さすが。

「じゃあ落ち着いたら顔出しに行こうかな」

 綺麗な赤身のローストビーフに舌鼓打ったりして、他愛もない会話をしてた。

「・・・なぁ、宮子」

「んー?」

 お行儀悪く、ちょっとモグモグしながら。

「お前、俺と」

 仁兄が言いかけた時。

「・・・失礼します、宮子お嬢さん」

 目の前に長身の超イケメンさんが立ったから。思わず塊を呑み込んじゃった。
 見覚えある、ううん、一度会ったら忘れないだろうって人。ダークなスーツがこれでもかって似合うし、哲っちゃんと甲乙つけがたいくらい礼儀正しくて紳士。

「あ、こんばんは・・・っ、相澤さん!」

 お皿を横に置き、立ち上がって軽く会釈する。
 三の組、若頭代理の相澤さんは『一ツ橋の虎徹(こてつ)』って呼ばれるほど凄い人だって、前に聴いた。手段を選ばない冷徹な感じには見えないのに。

「ご挨拶が遅れてすみません。・・・何かうちの若い衆に粗相があったようで。全て監督不行き届きの自分の責任です。処分は何なりとお受けする覚悟ですので」

 頭まで下げられて、こっちが慌てちゃう。

「あの、ほんとに気にしないで下さいっ。あたしの顔なんて知らなくて当然なんですから・・・! 今日はおじいちゃんのお目出たい席ですし、叱ったりしないであげて下さいね?」

 あたしが心配そうに見上げると、相澤さんは切れ長の目を細めるようにして淡く微笑んだ。

「・・・いずれこの恩義は自分の命で返させて下さい。お嬢さんの役に立って散らすのなら、本望というものです」 



 ・・・・・・・・・。今すぐこの人の腕の中で死にたいって妄想が暴走しちゃったよ。ゴメン、遊佐。
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