愛は、つらぬく主義につき。
「どうして、・・・ですか?」

彼女は目を瞠り、真剣な顔であたしを見つめた。

相澤さんの奥さんとはいえ本当はどんな人なのかも知らない。だけど今日初めて会った織江さんに、あたしは遊佐のことを打ち明けてた。知らない女同士、ただ可哀想に思って同情して欲しかったのかもしれない。

聴き終えた織江さんは泣きそうな顔であたしの隣りに座ると、優しく肩を抱いてくれた。ふわりと薫るフローラルの香り。女の人に抱き締めてもらうのは遊佐にされるのと少し違う。力強さは無いけど慈愛に包まれる。

「・・・辛いですね宮子さん。わたしには話を聴くぐらいしか出来ませんけど、それで楽になるならぜんぶ吐き出してください。宮子さんの痛みも少しなら分かってあげられると思うんです・・・」

「・・・ありがとう、ございます」

あたしは目頭が熱くなって涙が潤むのを堪えながら、それだけを言うのがやっと。彼女はそっと躰を離し、俯き加減のあたしを労わるように続けた。

「・・・わたしも結婚する前に一度、渉さんに別れを言われたことがあります」

思わず顔を上げると、穏やかな眼差しが注がれてた。

「仕事のことで何かあったみたいで、わたしを巻き込みたくなかったんだと思います。今ならまだ間に合うから、引き返して普通に生きろと言われました」

「織江さんはなんて答えたんですか・・・?」

「どうしても離れろと言うなら殺して・・・って詰め寄りました」

儚げな微笑み。従順で大人しそうで、とてもそんな風には見えない。でも澄んだ眸の奥にはためくのは、蒼く燃え盛る焔のような、何か。

「わたしには渉さんしかいないんです。・・・あのひとがいないなら生きてる意味がない。その覚悟を知ってもらいたかった」

「相澤さんはどうしたんですか・・・?」
 
「迷ったと思います。渉さんにとってもきっと、覚悟のいることだったはずですから。それでも受け止めてくれました。命を盾にするなって、ひどく叱られましたけど・・・。わたしは離れるつもりはありませんでしたし、いつでもあのひとと一緒に逝くつもりでいます。そう決めてるんです」 

胸の内にはどれだけの激しい焔が宿っているのか。優しい面差しからは想像が出来ないくらい、とても強いひとだと知った。
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