毒舌社長は甘い秘密を隠す

「……九条さん、引き留めてしまってすみません。立ち話で失礼しました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。それでは失礼します」

 挨拶を交わした社長は、九条さんに会釈してマンションに入っていく。
 九条さんは、私の背に触れないように手を添え、駐車場へとつま先を向けた。


「井浦さんがこちらにお住まいなんて、知りませんでした。沢村さんはご存じでしたよね?」
「すみません。秘書として当然存じておりましたが、お伝えしていいものかと」
「それでいいじゃないですか。あなたは彼の秘書で、私の客先の社員さんなんですから。なにも間違っていないでしょう」

 秘書経験のある九条さんに言われると、自分の対応に間違いがなかったと太鼓判を押されたようで胸をなでおろす。


「でも、どうして井浦さんはあんなに冷たい瞳をしていたんでしょうね……。初めて見ましたよ」
「そうですか? いつもと変わらないと思いましたが」

 そう返しながらも、間違いなく社長の機嫌を損ねていると確信した。

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