毒舌社長は甘い秘密を隠す

「いつもこんな素敵なお店で過ごされているんですか?」
「まさか、毎日ではありませんよ。こうして大切な方をお連れする時だけです」
「……恐縮です。ありがとうございます」

 彼の言葉に深い意味はないと分かっていても、紳士的で色気もあるから妙にドキッとさせられる。
 窓際のテーブル席で向かいあって座ると、彼はコース料理をオーダーした。


「お酒、大丈夫ですか?」
「はい」

 ほどなくしてグラスにシャンパンが注がれ、乾杯して口を付けていると、前菜の毛蟹のサラダが運ばれてきた。


「今日は、沢村さんに大切なお話があるんです」
「はい、なんでしょうか」
「単刀直入に申し上げますが、あなたを井浦さんのところから引き抜きたいんです」
「えっ!? 引き抜きですか?」

 まったく予想していなかった話に、食事の手を止めて彼を見つめ返す。
 私が、九条さんの会社に? ……でも、どうして?


「順を追って経緯をお話しますね。お食事も一緒に楽しんでください」

 商談や交渉の場面に慣れているからか、九条さんは変わらぬ様子で淡々としている。

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