毒舌社長は甘い秘密を隠す

「ええ。沢村を手離すつもりはありません」

 私が答えるよりも先に、社長が答えた。


「それは、井浦さんのご意向ですよね?」
「私は」
「君は黙っていなさい」

 私も、今回の話はお受けできないと言おうとしたのに、社長に遮られてしまった。


「沢村は秘書になって、まだ二年ほどです。御社で活躍すれば、彼女のキャリアにも箔がついてプラスになることでしょう。でも、弊社にとっても私にとっても、沢村は必要なんです」
「存じておりますよ。ですから、私も欲しいと思ったんです」

 社長がいくら話しても、九条さんは食い下がる。


「井浦さんが大切にされているものが欲しいんです。沢村さんを奪ったら、あなたがどうなるのか見てみたいんですよ」

 九条さんらしくない言葉に驚いたのは、私だけだった。
 社長は姿勢を正したまま、アイスコーヒーに口を付けることもなく、じっと正面に座っている九条さんを見つめている。

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