毒舌社長は甘い秘密を隠す
「お耳に入れておこうと思ったのですが、先に彼女の意向を聞きたかったもので、失礼を承知でお話させていただいたところです」
社長の鋭い視線に引けを取らない、真剣な九条さんの表情に、私が息をのんでしまった。
「人当たりがよくて、笑顔が素敵な秘書さんだと、常々羨ましく思っていたんです。新会社の業務をサポートしてくれる新しい秘書を探しておりまして、すぐに沢村さんが浮かびましたよ。どうやらそのご様子だと、もうお答えが決まっているようですね」
九条さんはやわらかい微笑みを私に向ける。
少しも表情を緩めず、鋭さを保った社長のことなど気にしていない様子だ。
だから、そんな九条さんの心模様がやっと見えたようで、背筋がぞくっとした。
九条さんは、策士だ。もしかしたら、私からなにか情報を引き出すために声をかけてきたのかもしれない。
そもそも、井浦リアルエステートと九条不動産はライバル。協力して事業を成し遂げることも少なくないが、元は都市開発業の二大勢力なのだから。
そんなことにも気づかず、日頃仲のいいふたりの様子に安心して、九条さんの元へ行くか悩むなんて……私は秘書失格だ。