毒舌社長は甘い秘密を隠す

「八神さん、予定通りいらっしゃる?」
「はい」
「あぁーもう、本当に楽しみ!」

 一番仲のいい秘書仲間の中里留美さんは、私の一年先輩だ。入社以来ずっと常務に仕えている。
 自他ともに認める八神ファンの留美さんには本当にかわいがってもらっていて、社長付の秘書で配属された時は、毒舌で泣きそうになっているといつも励ましてくれた恩人だ。
 彼女がいなかったら、もしかしたらとっくに音をあげていただろう。
 ちなみに、下の名前で呼んでいるのは彼女の強い希望があったから。後輩に壁を作られたくないからと気を使ってくれる、素敵な女性だ。


「そういえば、社長のお加減はもう大丈夫そう?」
「はい。昨日ゆっくりされたようで、今日はいつもの〝アレ〟でした」
「なるほど。じゃあ、本調子ってことね」

 アレ、とは毒舌のこと。
 社長の秘密を口外しない分、これくらいの話は許してもらえるだろう。
 日々、毒舌のシャワーを浴びているのだから、アレで済まされているだけいいほうだ。

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