毒舌社長は甘い秘密を隠す

 無言でいる私を見かねたのか、時計を見遣った彼は「まぁいい」と話を切った。


「本日のご予定をお伝えいたします。まずは会議についてですが、十四時より定例の役員会議となっております。来客については、八神グループの八神副社長様が十時半に来社されます。それから――」

 昨日延期した来客が二件入っていることと、各書類の確認等を申し伝えると、了解と返事が返ってきた。


「八神さんの好きなものは用意してあるか?」
「はい。昨日、社長からご連絡いただいた時、ちょうど銀座で購入しておりました。Pâtisserie Aimee(パティスリー エメ)のフィナンシェとマドレーヌ、ですよね?」

 小さく頷いた社長に一礼して、隣の秘書室へ戻った。

 八神グループは、服飾業界の最大手だ。
 来社された際にお出しする洋菓子については、秘書室内の誰もが知っている。だけど、八神副社長をすぐに覚えたのは、彼が〝オオカミ御曹司〟と巷のOLの間で呼ばれているから。
 恋愛経験の浅い私にとって、留美さんから聞かされたその悪評は、うちの社長の毒舌に負けず劣らずのインパクトだった。

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