毒舌社長は甘い秘密を隠す
下降していたエレベーターが、ロビー階に到着した。
明かりは夜間照明に切り替わっていて仄暗い。ガラス張りの壁から、目の前の道路を行き交う車列のテールランプが流れるのが見えた。
社長の背中を追って裏手に回り、通用口から出た。
四月の夜風はほんの少し生ぬるく、私の耳に音を立てて吹き付けてくる。
「タクシーは停めなくていいからな」
「はい」
二日前の夜を思い出す。
あの時も、私を先にタクシーに乗せてくれたんだった。そして、ふとした優しさに弱い、自分の恋愛癖のようなものも知った。
ほどなくして空車の行燈を灯したタクシーが一台やってきた。
今日は先に社長に乗ってもらおう。この時間なら電車で帰れるから問題はないだろう。
隣で手を挙げている社長の横顔に見惚れていたら、目の前で後部座席のドアが開いた。