毒舌社長は甘い秘密を隠す
「どうしたの? 沢村さん」
「あ、おはようございます……」
どーんと気分が落ち込んでいる私に気づいた留美さんが、常務室から戻ってくるなり声をかけてきた。
「もしかして、いつものアレでやられた?」
「えぇ、まぁそんなところです」
「まったく、こんなかわいい秘書を付けておいていじめるなんて」
「大丈夫です。自業自得なところもあるので」
「そうなの? なにがあったかわからないけど、本当に困ったら言ってね」
「ありがとうございます」
社長の指を噛んだなんて言えるはずもなかったけれど、落ち込んでいるときに無理やり話を聞きだそうとしない留美さんに幾分か救われた。
だけど、社長室からの内線に背筋が伸びる。
「沢村です」
《これから出かける》
運転手に車を会社の前に寄せておくように連絡したり、場合によっては必要な資料などの準備も必要だ。
役員付きの秘書ともなると、急遽外出する時に臨機応変に対応しなくてはならないこともあるけれど、社長の場合は本当に時間を置かずに出かけてしまうので、急に慌ただしくなる。