毒舌社長は甘い秘密を隠す
「どちらに向かわれるのですか?」
《九条不動産に行く。君も同行してくれ》
「かしこまりました。十分後にお声掛けいたします」
外出の準備を済ませ、不在の間の電話対応等を留美さんや同僚に依頼して秘書室を出る。
社長室のドアを三回ノックして入ると、彼も身だしなみを整えたところだった。
「ご用意ができました」
「わかった」
社長室を出た彼の後について廊下を歩き、エレベーターのボタンを押して到着を待つ。
これから向かう【九条不動産ホールディングス】は、先日会った九条晴馬(くじょうはるま)社長が代表を務めている。国内外に多数の土地を保有し、その活用や不動産業で代々続いている企業だ。
東京タワーが目前にある芝公園の九条不動産まで、黒塗りの社用車で向かう。
その間、後部座席でちらりと社長を見るものの、彼はいつもと変わらない無表情で車窓を流れる景色を見つめていた。
社長と秘書なのだから、仕事が円滑に進めば問題はない。
だけど、彼への想いに気づいてしまったからには、そうもいかなくなってしまった。