愛されざかり~イジワル御曹司の目覚める独占欲~
その落ち着いた声に、「教えてほしいことがあるんです」とポツリと答えた。
「メールをくれなくなったってことは、私に待つなと言っているんですか?」
自分でも驚くほどに落ち着いて聞くことができた。
私の問いかけに、真紀さんは手元のコーヒーに目線を落とす。
「五年、かかってしまった。これには自分でも予想外だったけど、親父の研究の目途が立ったのは最近だ。これ以上、時間を掛けたくなかったからこの一年は寝る間も惜しんで、研究に没頭した。そしてやっと親父から好きなことをしていいと言われたんだ。好きに生きていいと。要は、用済みだってことなんだろうけど、でも気が付いた時には里桜と連絡が途絶えてしまっていた」
「メールの返信をくれなかったのは真紀さんです」
少し、拗ねたように言うと困ったように頷いた。
「明日返そう、明日返そうって思って時間が過ぎてしまったんだ。それでも、俺はずっと里桜を想っていた。早く日本に、里桜の所に帰ろうと、そればかりを考えて、肝心の里桜をほおってしまっていた。結果、婚活しているとはな。少し堪えた」
真紀さんは苦笑するが、私は笑えなかった。
「真紀さんが、待たなくていいって言ったんです」
「そうだな」
「返信が途絶えたのも、そういうことかと思っていました」
「本当はそういうつもりではなかった。結果、そう思われても仕方ないことだけど」
そういうつもりはなかった?
気が付けば、私はソファーから降りて、真紀さんの隣に座りその腕を掴んでいた。