愛されざかり~イジワル御曹司の目覚める独占欲~


支払おうとする藤堂先生をなんとか抑え込み、勝利を勝ち取った私は無事にチケットを二枚買えた。
やっとお礼とお詫びが出来た気分になり、胸がスッキリとする。しかしチケットを買うことに夢中になりすぎて座席をよく確認しておらず、とりあえず並びで取れるところをと取ったはいいけれど、その席に着いた途端口をあんぐりと開けてしまった。
これは……。


「すみません、先生」
「なんで謝るんだよ?」
「だって……」


上映時間、10分前。
藤堂先生と私は、いわゆるカップルシートという座席に座っていた。カップルシートは二人席用ソファーで、ややゆとりはあるものの二人の間にしきりがなく、家のソファーのように座ることになる。人気作品のため座席がほとんど埋まっており、二人並びの席はここしか空いていなかったからよく確認していなかった。
さすがにこれは気まずいだろうと思ったが、藤堂先生はケロッとしている。


「俺は気にしないけど」


本当に全く気にしてなさそうに、貰ってきたフライヤーを眺めている。
私だって初めは仕方ないと思っていたけれど、いざ席に座ると妙にドキドキしてしまったのだ。座席の区切りって意外と大切なんだなって思う。

平常心、平常心。

心を落ち着かせようとする。だってこの前先生が男を意識させるようなことをいうから、時々どうしたらいいかわからなくなる。特にこういう時は尚更。


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