恋を知らない
(奇跡みたいだ)
と、ぼくは思った。
このひと月の間で、これで三度めだ。
いくら地方都市とは言え、人口40万人の街でこれだけ出会うというのは、これはもう奇跡という以外にない。
しかも、彼女のほうもぼくのことを覚えていてくれたのだろう。ああして手をふってくれている。
自分の顔にじんわりと笑みの浮かんでくるのがわかる。それはたぶん、さわやかさのかけらもない、だらしない笑みに違いない。でも、浮かんでしまう笑みを抑えることなんてできない。
ぼくはニヤけた笑みを浮かべたまま、「めぐみ」に向かって片手を上げて応えようとした。
手は胸の高さにさえも持ち上げられなかった。
気づいたからだ。
ぼくのことを見ているのだとばかり思っていた「めぐみ」の視線が、実は、微妙にぼくのそれと交わっていないことに。
ぼくは彼女の視線を追って、自分の肩越しに後ろをふりむくことになった。