恋を知らない
「ホテルへ行きましょう、ね?」
マリアがまたささやく。細い舌がのびてきて、ぼくのうなじをぬるりと舐めて、もどっていく。
マリアが言っているホテルというのは、機構と契約しているシティホテルのことだ。ぼくら有資格者は格安で泊まることができる。寮として借り上げているマンションばかりではなく、ときには気分を変えてホテルで精子を放出しろ、というわけだ。
マリアにべたべたされて、ぼくの肉体は興奮の度合いを高めていく。
一方で、頭の中は「めぐみ」のことでぐちゃぐちゃになって、ぼくはもう何が何だかわけがわからなくなってきた。前方のスクリーンではアニメのストーリーが進行しているが、そんなものはもう1ミリもぼくの頭に入ってこなくなっていた。
「くそっ」
ぼくは小さく毒づくと、マリアの手を引っぱって映画館をとび出した。無人タクシーを呼んで、機構契約のシティホテルへ急行した。
「ああっ、シュウ、何を」
「うるさいっ」
ホテルの部屋に入るなり、ぼくはマリアを部屋の奥にあった丸テーブルに向かって突き飛ばした。テーブルに両手をつかせ、赤いワンピースのスカート部分を、その下のベージュ色のスリップといっしょに思いきり背中までまくり上げた。黒い網状のパンティストッキングと黒いショーツを、ほとんど引きちぎるようにして引きずりおろした。