恋を知らない
(どういうことだ?)
ぼくはうろたえた。「めぐみ」のことでショックを受けて、落ちこんでいたはずだ。なのに、どうしてぼくの体はこんなに興奮しているのだろう?
マリアの発している香りのせいかと思った。
そうかもしれないし、そうでないかもしれなかった。
ただひとつ言えるのは、ぼくは「めぐみ」のことで落ちこみながら、同時に、性的に興奮するような男だということだった。
それはひどく卑しいことに思えた。
精子を作って放出するのがぼくの仕事だ。そんなことをしているうちに、いつの間にか、セックスしか能のないイヤラシイ人間に成り下がってしまったのだろうか。
ぼくはひどい自己嫌悪を覚えた。
「ねえ、シュウ、ホテルをとってあるの」
マリアが甘ったるい声でぼくの耳もとにささやく。
さっき払いのけたマリアの手が、いつの間にかまたサワサワとぼくの手の甲を撫で、太ももを撫で、股の間を撫でる。ぼくの下腹部は痛いほどに興奮している。