恋を知らない
大きな四角い箱が、中央のスペースに鎮座していた。
縦横九十センチに、高さ一・五メートルといったところか。箱の角は丸みを帯び、表面はスーツケースの外装みたいにザラザラしている。
いや、スーツケースみたい、じゃない。要は極端に分厚いスーツケースが立っているのだった。
ケースが床と接する面には、通常のスーツケースよりもずっと大きなキャスターがついていた。キャスターにはストッパーまでついていた。
マリアは鼻歌を歌いながら、今までケースを包んでいたと思われる大きなビニルの包装を畳んでいる。
「なんだ、それ?」
ぼくはもう一度問いかけた。
「シュウにプレゼントよ。もうちょっと待ってね」
マリアは蓋の合わせ目に設けられた、ふたつの原始的なダイヤル錠の数字を合わせると、大きなパチン錠を四つ外して、ドアを開けるように蓋を開いた。
ケースの中には、ウレタンらしい詰め物がびっしりと詰められていた。
マリアが詰め物のブロックを上から順に取り外していく。ウレタンの合い間から、箱の中身が見えてきた。