恋を知らない

「え?」

ぼくは棒立ちになった。

動けないでいるぼくにはおかまいなしに、マリアは詰め物を取り除き続けた。

「どう、気に入ってくれた?」

「な……」

詰め物を全て取り除いたマリアは、自慢げにぼくに微笑みかけてくる。

ぼくは返事もできなかった。

ケースの中には少女がいた。

ケースの奥のほうにもウレタンが敷きつめられ、椅子に腰かけるようにしている少女を固定している。

彼女が着ているのは鮮やかな紺色のブレザーと、グレーのプリーツスカート。足には白いソックス。市内の、とある高校の女子生徒の制服だ。そして、その少女の顔というのが、

(めぐみ?)

胸の中でつぶやくほどに、それは「めぐみ」そっくりに見えた。

実際には少女は目をつぶっていたから、本当に「めぐみ」そっくりかどうかはわからない。

でも、丸みを帯びた全身の体型とか、後ろでまとめた髪型、丸っこい顔の輪郭、そういったものから受ける全体的な印象が「めぐみ」に似ているのだった。

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