Anna
今日の太陽はまたこの間に比べて、容赦なく彼の透き通る白い肌を照りつける。夏もまだまだ終わりそうにない。特別好きでもない冬が、ふと恋しく思う。
サングラスを黒のノースリーブのVネックに挟んで、片道にあった本屋で買ってきた小綺麗なモデルが表紙の雑誌をパラパラとめくりながら、彼は不意にそんなことをぼやいた。
「また来たんだ」
ふと雑誌への視線を移すと、また今日も道具片手に杏奈がこちらを睨んでいる。睨んでいると言っても、大して怖くもないのだが。
注目されてしまったので、仕方なく慧もパタンと雑誌を閉じる。ほんとはひっそりと部屋の端っこで読書に耽るつもりだったのだが、この際仕方ない。
「来ちゃダメなの?」
「すごく邪魔なんですけど。ここまだ出店前で、ものすごく忙しいんだけど」
慧に文句を言いながら、彼女はガシガシと手を休めることはない。洗濯を繰り返して使い古したエプロンをドロドロに汚しているのも相変わらずだ。
慧はチラリと店内の様子を見回してみる。
先日と同じように、ここには慧と杏奈しかいない。店の中は様々な機材で雑然と溢れかえっている。
「ふーん。あんた一人でここ切り盛りしてくの?」
「まあ、そうだね」
「いつお店出すの?」
「んん〜。とりあえずお店に並べる商品を完成させてからかなあ」
慧が思っているより、幸先不安の様子である。
彼と違って、杏奈は昔から自分のお店を出すことしか口にしなかった。そして今も衰えることなく自分の夢に向かい続けている。
今の自分とは何もかもかけ離れている杏奈。
彼女は、どうしてそこまで頑固になれるのか?
「あんたって肝心なところはいつも後回しよね」
「まだお店の名前も看板にする商品も決めてないからね。困ったもんだ」
なんて弱腰を言いつつも、にひひっと全く困っている様子には見えない杏奈は、彼が密かに感じる劣等感に気づくはずもない。
わかりきっていたのに。お互いあの頃とは違う道を歩んでしまったのに。自分から逃げて来てしまったのに、それでもあの頃から変わらずあるのは、歪んでしまったこの気持ちだけ。