月と星
どうしようか決められないままぼーっと座っていた。
不意に後ろのドアの辺りが騒がしくなった。
「百合!昴様!」
薫が若干興奮気味に走って来る。
「え、昴?」
何しに来たんだろ?
薫に促されるまま廊下に出ると、昴が立っていた。
「昴、どうしたの?」
昴は黒く艶めいた長い髪を片耳に挟みながら眉をひそめた。
「あのさ、蓮が心配だからお前今日早退してくんない?」
双子でも、蓮兄とは全然違う昴の顔立ち。
切れ長で優しい目は同じだけど、鼻も唇も蓮兄とは違う。
どちらかといえば、蓮兄の方が中性的な顔立ちだ。
「おい、お前聞いてる?」
あたしはついついぼーっと昴の顔を眺めてしまっていた。
「あっ…うん、わかった。蓮兄はバイトだっけ?」
「バイト。…つか、お前」
急に昴が近付いてきて、あたしの前髪を掻き上げおでこに触れる。
遠目からあたし達を見ていた女子が色めきだった。
「ちょ、昴?」
「お前も熱あんの?熱い」
あたしも160センチでそこまで小さい訳じゃないけど、背の高い昴に上から見下ろされる。
「え…無いよ?」
「ならいいけど、」
ふうっと昴がため息をつきながら
「スカートそんな短くしてたら風邪ひくよ?」
とあたしの肩を引き寄せ耳元で囁いた。
「…っ、ばか、変態!」
あたしは顔が熱くなるのを感じながら教室に逃げ込む。
「オジサンじゃないんだから…」
ブツブツ呟きながら帰る準備を終えて、羨ましがる薫をよそ目に教室を出た。