「英国の月は、暁に映る恋に溺れる」
午前9時ーー新着のメールを確認して、昨日の終業間際にデスクにとりあえず積んでおいた企画書と資料に一通り目を通していると、私は毎日行われているルーティンが今日はなぜが狂っているというモヤモヤした違和感を覚えた。

......あれ?

さっきメール確認した時......。

充見先生からメール来てなかったよね?

主に深夜から朝方にかけて仕事をする先生は、仕事がひと段落した時点で毎回必ずメールをくださっていた。

”お疲れ様。充見ですーー”から始まる半ば定型文と化したメッセージは多数の新着メールの中でフラグの役割を果たしており、すぐに充見先生からのメッセージを探し出すことができた。

そのフラグを私は今日に限って見落としてしまったのかもしれない。

日常における些細な異変は不運の始まり......。

こんな嫌な文章が、なぜか突如として頭の中に浮かんだ。

こういう現象を虫の知らせと言うのだろうか?

私は一抹の不安を振り払い、今一度充見先生からのメールを探した。

”Tururururu Trururururu”

集中してメール探しをしているとオフィスの電話が鳴った。

今この空間にいるのは伊原さんと私だけ。それなら当然私が電話をとるべき。いくらメール探しというタイムロスを食らっているからといって、どんなに伊原さんが迅速な業務遂行能力を備えているからといって、それでもやっぱり、後輩の私が電話を......。

「はい。星霜社です」

< 6 / 11 >

この作品をシェア

pagetop