赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「実は、明日が来るが怖くて……」

「シェリー……そうだな。生きるか死ぬか、それは俺たちの説得力にかかっている。重圧に不安になるのは当然のことだ」


 慰めるように肩を抱き寄せられ、額を重ねられる。感じる彼の体温に、この温もりを失いたくないと強く思った。


「私はスヴェン様を失いたくありません」


 しがみつくようにスヴェンのシャツを握れば、背中に腕が回り強く抱きしめられる。顔を上げると彼の顔が近づいてきて、シェリーはそっと目を閉じた。

受け入れた唇はさらに強く押し付けられ、そのままベットに倒れこむ。かすかな水音とともに離れた唇を名残惜しく目で追っていると、スヴェンは眉根を寄せて切羽詰まった表情浮かべた。


「シェリー、そのような顔をするな」

「私はどんな顔をしているのでしょうか」

「欲しくてたまらないと、俺を求める顔だ」 


 そう言ってスヴェンは、ベットの外に投げ出されているシェリーの膝の裏に手を差し込む。なにをするのかと呆けていると、少し抱き上げられてベットの上に寝かされた。

背中にマットレスの柔らかさを感じながら、上に跨るスヴェンを見上げる。その瞳の赤は、今まで見てきた中で一番強く燃えていた。


「明日、どちらかが命を落とすこともあるやもしれん」


 スヴェンは切なげに目を細めて、シェリーの輪郭を指でなぞる。ゾクリと肌が際立って触れられた部分から痺れていくようだった。


「永遠に触れられなくなる前に、俺にシェリーのすべてをくれないか」

「スヴェン様、それって……」

「順序が逆で悪いな。お前を嫁にもらってから、するべきだということは重々承知している。だが、お前のすべてを知らないまま死ぬのだけは御免だ」


 彼の言う〝すべて〟が、心だけでなく体も欲しいという意味だとわかる。こんなにも彼に求められて、自分は幸せ者だ。でも、素直に喜べない。

その言い方がまるで死を覚悟しているようで、シェリーは泣きそうになりながら彼の首に手を回す。


「死ぬかもしれないから、私を抱くのですか?」

「シェリー?」

「私は共に生きるために、この体にスヴェン様の存在を刻み付けてほしい。そうすれば、あなたのために生きなければと心を強く保てると思うから」


 それを聞いたスヴェンは一瞬目を丸くして、すぐにハッと笑った。


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