赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「ガイの手紙には、明日の晩に決行すると書かれている。つまり作戦に参加できる状態にあるということだ」
「あ……では、無事だということですね」
よかったと胸を撫で下ろして、アルファスと顔を見合わせる。彼も同じく不安だったのだろう。スヴェンの言葉に笑みをこぼしていた。
「大公殿下に気づかれているとなると、城の警備体制は俺の知っているものではなくなっているだろう。だが、夜間の方が日中よりも手薄になるのは間違いない」
邸内に入り、みんなでリビングに向かいながらスヴェンの話に耳を傾ける。
「でも、どうやってウォンシャー公爵と合流するんだ?」
「アルファスに様、合流する必要はありません。俺たちは議会に乗り込むんですよ」
スヴェンの説明を聞いたアルファスはギョッとして「乗り込む?」と声を裏返らせながら聞き返した。
「おそらく明日、この邸にウォンシャー公爵が馬車を向かわせるはずだ。それに乗り、昼頃には城下町入りする。暗くなるまで町に潜伏し、議会中に大公殿下の悪事をすべて公表する」
簡単な流れを説明してくれたスヴェンの話が、どこか遠くに聞こえる。お互いに明日の動きを確認し合い話が終わっても、いよいよ決戦かと思うと気が張って夕食中もぼんやりしてしまった。
議会で大公が黒幕であることを証明できなければ、そのままスヴェンとアルファスは捕縛されるだろう。それを想像するだけで、絶対に失敗できないと体が震えてしまうのだ。
「駄目ね、弱気になったりして」
お風呂を出てからベットに腰を掛けて、どれくらい考え事をしていたのだろう。今日は眠れそうにないな、とぼんやりしていると部屋の扉がノックされる。
シェリーは心ここに在らずで「はい」と返事をした。少しして躊躇いがちに扉が開けられると、ゆったりとしたシャツに着替えたスヴェンが怪訝な顔で側にやってくる。
「待っても扉が開かないから心配したぞ」
「私ったら、出迎えもせずに申し訳ありません」
ハッとして頭を下げると隣に腰かけたスヴェンが、気遣うような眼差しを向けてくる。
「それは構わないが、どうかしたのか?」
「あ、えっと……」
皆で頑張ろうとしているときに、弱音など吐けば士気が下がる。そう思って唇を引き結んだシェリーに、スヴェンは「強情だな」と困ったように笑う。
大きく骨ばった彼の手が伸びてくると、固くなった唇をほぐすように指で撫でられた。
「俺たちは運命を共にしているのだから、その胸にしまい込んだ不安を一緒に背負わせてほしい。駄目だろうか」
懇願するように聞かれてシェリーの胸は切なく締めつけられるのと同時に、喜びが洪水のように全身に駆け巡るのを感じた。
彼の優しさに目に熱いものがこみ上げてきて、シェリーは「駄目なわけがないです」と小さな声で返す。そして胸に溜まっていた思いをすヴぇて吐き出すように言葉を紡ぐ。