赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「勝手に死ぬことは許さない」


 そう言って手首を掴まれると、強くスヴェンの方へ引き寄せられた。そのまま腰に腕が回り、顎を持ち上げられると深く口づけられる。

 驚いて彼の胸を押し返したのだが、当然ビクともしなかった。

 何度も味わうように角度を変えて口づけてきたスヴェンは、ようやく満足したのか唇を離すと額を重ねてくる。


「お前が死神に連れ去られそうなときは、こうやって俺がこの世界に繋ぎ止めよう」

「あ、あれは物の例えです!」

「ははっ、わかっている。からかっただけだ」


 子供にするように頭を撫でられたシェリーは、からかわれていたと知り脱力する。恨めしそうにスヴェンを見ると、シェリーの表情とは相反して微笑を浮かべてた。


「お前はいつも冷静に振る舞おうとしているが、俺の前ではそのように無邪気でいろ。肩の力を抜いて甘えてくれたほうがうれしい」

「スヴェン様……どうしてそんなに、優しくしてくれるのですか?」

「愛した女だからに決まっているだろう」


 スヴェンの側にいると、大切にされていると実感できる。両親が他界してからはひとりで生きてきたので、甘えたことがない。

具体的にどうすればいいのか頭を悩ませていると、スヴェンが手を握ってくる。


「すぐに思いつかないのなら、すべて片付いてから聞こう。それまでに考えておいてくれ」

「あ……はい」

「楽しみにしている」


 向けられる笑顔は優しくて、シェリーの胸は温かくなる。スヴェンの手を指を絡めるように握り返し、約束を果たすためになんとしても生き抜かなければと心に刻んだ。




 昼食を食べ終わった頃、スヴェンの予測通り邸にウォンシャー公爵から手配されたという馬車がやってきた。

シェリーはスヴェンとアルファスとともに馬車に乗り込み、町へ向かうと空が暗むまで潜伏した。


 夜になると暗闇に紛れるようにして、気が遠くなるほど高い城壁の前にやってくる。ここは城の裏手に位置しており、見回りは手薄になっているのだとスヴェンが教えてくれた。


「梯子が用意してある……。これもウォンシャー公爵が?」


 アルファスは城壁にかけられた縄梯子を見上げて、口を開けたまま目を瞬かせる。

スヴェンは強度を確かめるように縄を掴んで引っ張り、「一度に三人いけるな」と何度かうなづいた。


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