赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「ウォンシャー公爵はどうやら、俺たちの侵入経路をあらかじめ準備してくれているようです。まともに打ち合わせてはいないですが、行くしかないでしょう」
「わかった。スヴェンの指示に従う。じゃあ、僕たちはここを登ればいいんだな」
覚悟を決めたアルファスの隣で、シェリーは高い城壁の頂点を見上げてブルブルと震えていた。
(あんなに高いところ、本当に登れるの? 大げさだけれど、空まで届いてしまいそうなくらい高く見えるわ)
高いところが苦手なわけではないのだが、ここまでくると風で飛ばされやしないか、縄が切れやしないかと不安ばかりが募ってしまう。
しかし国の命運がかかっているのだから、弱音を吐いている場合ではない。頑張らなければと強く拳を握りしめていると、「シェリー」とスヴェンに声をかけられた。
「シェリー、落ち着け。俺がお前の後から登るから、落ちても必ず受け止める」
「スヴェン様……ありがとうございます」
安心させるように頭を撫でてくれた彼のおかげで、ざわついていた胸が落ち着いてくる。
シェリーが笑みを返すと、スヴェンも安堵したようにうなづき返してくれた。
「かなり高さがある。アルファス様は慎重に俺の後ろをついてきてください」
「任せておけ、僕はお前の訓練を受けているんだからな、これくらい余裕だ」
「えぇ、信頼していますよ」
スヴェンはアルファスと笑みを交わして「行くぞ」と厳しい面持ちで縄に手をかける。
城壁の半分までくると風が強くなったが、振り落とされるほどではなかったので、シェリーはなるべく下を見ないように進む。
そして無事に城内の地面に足がつくと、ガクンッと膝から崩れ落ちるように地べたに座り込んだ。
「頑張ったな、シェリー!」
アルファスが手を差し伸べてくれる。シェリーは「ありがとうございます」と笑みを浮かべて、彼の手を借りながら立ち上がった。
そのとき、遠くに複数の明かりと人の声が聞こえてきて、シェリーたちに緊張が走った。
「見回りだ。すぐにここを離れるぞ」
先導するスヴェンの後を追って城壁から離れると、青薔薇の咲く庭園にやってきた。
花壇の陰に身を隠しながらスヴェンは外廊下に人がいないことを確認すると、こちらを振り返る。