赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「ふたりとも、俺の側を離れるなよ」
シェリーは「はい」と答えながら、庭園の薔薇を見てハッとする。肩からかけている鞄の中には、犯行に使われた青薔薇が入っている。
ここにある薔薇との違いを説明できれば、より大公の虚言を証明できるのではないかと閃いたシェリーは提案してみる。
「あの、ここの薔薇も持っていきませんか?」
「ここの薔薇を……そうか、機転が利くな」
シェリーの言わんとすることがわかったのか、スヴェンは満足げに口端を持ち上げてシェリーの頭を撫でる。
こうして褒められると、自分が生徒にでもなったみたいで心がこそばゆかった。恥ずかしさを紛らわすようにコホンッと咳払いをして、シェリーはアルファスに向き直り確認する。
「アルファス様、ここのオンディーナを一輪もらってもよろしいでしょうか?」
「シェリー、もちろんだ」
「絶対にすべてを明らかにしましょうね」
「あぁ、そして二度とこのようなことが起こらないように、僕がちゃんと国王としてみんなを守っていく」
出会った当初は気に食わないことがあるとすぐに大臣や教育係を辞めさせていた彼が、今ははっきりと芯の通った発言をするようになった。
自分がいなくても、もう十分すぎるほどアルファスには国王に必要なものを会得している。
自分の役目が終わる日も近いのかもしれないと少し寂しく思いながら、皆で城へ侵入する。
廊下を歩いている途中、議会の行われる真実の間まであと少しというところで騎士と鉢合わせてしまった。
「あれはスヴェン様に国王陛下!」
「すぐに捕らえ――」
廊下の先にいるふたりの騎士たちが声を張り上げようとしたとき、隣にいたはずのスヴェンが目にも留まらぬ速さで前を駆け抜ける。
腰の剣は抜かずに鮮やかな身のこなしで、ふたりのうなじに手刀を落とした。
気絶させた部下を見下ろしながら「悪いな」と謝罪を口にすると、スヴェンは来ても大丈夫だというふうに手を挙げてくる。
側に行けば、目の前には正義を意味する天秤と剣が彫刻された大扉がある。マカボニーの重厚な材質が厳格で公正なる議会の場、真実の間に相応しい扉を前に息を呑んだ。
「覚悟はいいな、行くぞ」
皆の顔を見渡したスヴェンは、勢いよく扉を開け放つ。
そこには公爵と大公の姿があり、事情を知らない大臣のノーデンロックス公爵だけが「なぜここに国王陛下とセントファイフ公爵が!」と驚愕の叫びをあげていた。