赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「この薔薇の種類ですよ。青薔薇は神の祝福・奇跡・不可能を成し遂げるという意味があるんです」
「そうなんだ……実はこれ、母様が僕のためにって植えてくれたんだ」
「え、お母様が?」
薔薇からアルファスに視線を移したシェリーは、繋いだままの手をギュッと握る。父である国王の死は国民誰もが知っていることだが、アルファスの母――前王妃の話はあまり聞かない。
というのも、夫である前王が亡くなってから体調が優れず、息子が王位を継ぐのと同時に退位されたため、公の場に出てこなくなってしまったからだ。
「うん、ここでよく一緒にお散歩もしたんだよ。でも今は、部屋から出てこれないんだ。心が病気なんだって皆は言ってた」
「アルファス様……」
普段は天真爛漫な彼の瞳が切なさを映して揺れており、大好きな父を失い心を病んでしまった前王妃に胸を痛めているのが見てわかった。
わがままに振る舞ってしまうのも、周りに頼れる人がいなかったからかもしれない。
悲しみと背負わなければならない国王の役目に板挟みになって苦しんでいたのだろう。
そう思ったら、どうしても甘やかしてあげたくなって抱きしめる。
女の腕の中でさえすっぽりおさまってしまう彼の肩には、アルオスフィア国に生きるすべての人間の未来が重くのしかかっているのだ。
本来であれば働く父の姿を見て少しずつ学び、立場を自覚していくのが自然だったのだろう。
でも彼にはその猶予もなく、突然国王として即位することとなった。あまりにも酷すぎる運命を神は彼に与えたのだ。
「この青薔薇を植えたお母様は、心からアルファス様を愛しているのですね」
そう言えば、彼は腕の中で「え?」と不思議そうに見上げてくる。