赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「祝福ある人生を、どんな困難の前でも奇跡を味方につける力を、不可能を成し遂げる強さをアルファス様が授かりますようにという願いがこの薔薇たちには込められているように感じます」


 一般的には赤薔薇を植える家が多いのだが、城の庭園に植えられているのは青薔薇のオンディーナだけだ。

 アルファスのために植えたとも言っていたし、あくまで想像だけれどこの薔薇には前王妃の特別な想いが込められているのだと思う。


「そうだといいな……」


 セレアの腕にしがみつきながら、アルフスは嬉しそうに笑う。


「きっと、そうですよ」


 安心させるように微笑んでもう一度強く抱きしめたとき、ザッと風が薔薇の花びらを舞い上げた。

 青色の風がシェリーの薄桃色の髪を巻き上げると、結びが甘かったのかリボンが外れて解けてしまう。


「あっ、リボンが!」


 片手で髪をおさえると、リボンの行方を捜すために振り返る。その視線の先に立っている男性が、青いリボンを握った手を軽く上げてフッと笑った。


「美しい聖母様、落とし物だぞ」

「からかわないでください、スヴェン様」


 そこにいたのは庭園に咲く一輪の深紅の薔薇、スヴェン・セントファイフ公爵だった。


「本心だ。アルファス様を抱きしめるお前の姿は、聖母のように慈愛にあふれている。その姿に不思議と心が癒されるようだった」

「話を聞かれていたんですか?」


 だったら、声をかけてくれればいいのに、盗み聞きは誰だっていい気はしない。

眉根を寄せて無言の抗議をしていると、それを感じ取ったスヴェンが苦笑いを浮かべて手を伸ばしてくる。


 不意打ちの出来事に逃げることさえできなかったシェリーは、髪をひと房掬われて唇を寄せてくる彼をじっと見つめることしかできないでいた。


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