赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「すみません、アルファス様。ですが、この役目だけは陛下にも譲りたくないのです」
「なんだよそれ」
「それにあなた様には、エスコートしなければならないお方がいるでしょう」
そう、アルファスが今日エスコートするのは、母君であられるアリシア前王妃。内々の催し物には出席されているようで、そのときは必ず親子で参加されるのだと執事から聞いていた。
図星をつかれたアルファスは「うーん」と唸りながら悩んでいるようだった。
ややあって渋々といった様子でシェリーの顔を見上げると、ドレスの裾を掴んでくる。
「じゃあ……お母様の後だったら、僕とダンスを踊ってくれるのか?」
「もちろんです、私でよろしければ」
にっこりと笑って答えるとアルファスは「じゃあ、少しの間だけ任せたぞ」とスヴェンに向かって偉そうに声をかけた。
「この命に代えても、よからぬ虫がつかぬようお守りすると誓いますよ」
恭しく膝を曲げたスヴェンに「うむ」とうなずくと、アルファスは前王妃を迎えに行くために部屋を出ていった。
シェリーもスヴェンにエスコートされながら、大広間へと歩き出す。舞踏会の会場に近づくにつれて一流の演奏家が奏でるクラシック音楽が聞こえてきた。
心臓が高鳴るのは社交界に出るのが数年ぶりで、教え子であるアルファスや隣の彼に恥をかかせてはいけないという緊張からだ。
「緊張するか、シェリー」
そんなシェリーの心が見透かされているみたいに、スヴェンはすぐ声をかけてくる。内心ドキリとしながら、思っていることを素直に伝えることにした。
「そうですね……私はアルファス様の先生ですから、信頼を裏切らないためにもうまく立ち回らなければと少し緊張しています」
するとスヴェンには珍しく「ははっ」と大口を開けて笑った。目を見張って彼を見上げれば、例えるなら慈愛という言葉がしっくりくるような温かい視線とぶつかる。
「お前はいつも生徒のことばかり考えているのだな。仕事に誇りをもっている姿は凛としていて、見ている者に見習いたいと思わせる」
貴族の女が仕事をするのは、はしたないとされている。ローズ家の当主が他界したことで今では庶民となったが、元は中流階級の出だ。
カヴァネスになったときは周りの住人や友人だった令嬢たちから、憐れむような目で見られた。
あのときは自分が惨めでしかたなかったのだが、今は子供たちの未来を育てる仕事をしている自分に誇りをもっている。
それをスヴェンに認めてもらえたことがうれしかったシェリーは「最高の褒め言葉です」と微笑み返した。