赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「ならばスヴェン、あなたが私と踊ってくれるかしら」
その手を見つめたスヴェンは気遣うようにこちらを見る。それは見間違いかと思うほど一瞬で、彼は前王妃の手を「光栄です」と取った。
身分差を考えれば、スヴェンがその誘いを断ることができないのは百も承知だ。
でもエスコートすると言ったのに、という黒い感情を抱いてしまう自分を止められない。
音楽が鳴りだし、始まるダンス。シェリーはアルファスと体を揺らしながら、時々見えるスヴェンと前王妃のダンスに胸がズキズキと痛んで集中できないでいた。
ふたりのダンスは息がぴったりで華があり、どこのだれが見てもお似合いだったからだ。
気もそぞろにアルファスとのダンスを終えたシェリーは、「少し外の空気を吸ってきますね」とひと声かけてその場を離れる。
二階にあるこの広間にはバルコニーがあり、そこから階段を降りて青薔薇の庭園にやってきた。
音楽や人の笑い声を遠くに聞きながら、シェリーは項垂れる。
「私、アルファス様の先生失格だわ」
ダンスの最中、パートナー以外のことを考えて踊るのは最も失礼なことだ。
それをアルファスに教えたのは自分だというのに、情けなくて目先に見える噴水に飛び込みたい気分になる。
ここまできたら、もうどんなに否定しようと自分をごまかせない。何度も溢れ出ようとする感情に蓋をしてきたけれど、無理だった。
噴水のようにどんどん彼への想いが噴き出してきて、胸の内に収まりきらない。
「私――スヴェンに恋をしてしまったんだわ」
胸にやってくるのは幸福感と切なさの両方。好きになっても報われないというのに、どうして彼でなければならないのか。そんな問いを繰り返しては泣きそうになる。
「そんなところでどうしたのかな、お嬢さん」
ふいにかけられた声に振り向けば、グリーンのジェストコールに身を包んだブラウンの髪と瞳の男性が立っている。その襟元のスカーフには、見覚えのあるエメラルドの宝石。
彼には一度だけ会ったことがあった。