赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「ウォンシャー公爵……」
「やあ、シェリー嬢」
片手を上げてへらっと笑うウォンシャー公爵は、薔薇に囲まれて立ち尽くすシェリーの側に歩み寄る。
あまり話したことがないうえに身分の高い彼の隣に立つのは、なんとなく気まずい。視線を彷徨わせて助けを求めるように星空を見上げた。
銀色に輝く幾千の光はダイヤモンドのように美しいのだが、やっぱり側におわす公爵に意識がもっていかれる。
なにを言われるのか、自分に何の用なのかと心臓をバクバクさせていると――。
「君はローズ家のご令嬢らしいじゃないか」
唐突に自分の家のことを言われて、シェリーは彼の真意を定めるように横を向く。
「令嬢だなんて……ローズ家はすでに絶家していますので、私はただの庶民です」
「なにを言うんだい。俺は君を敬うに足る女性だと思ったから、そう呼んだんだ」
「どういう意味でしょうか」
ウォンシャー公爵が嫌いなわけではない。
ただ前に前王の毒殺の件を自分に話したことや身の回りに気をつけろと忠告されたことが、返って彼への不信感に繋がってしまった。
スヴェンもウォンシャー公爵と話していたとき警戒している様子だったので、こんなところでふたりきりになっても大丈夫なのかと不安になる。
顔を強張らせるシェリーに彼は気づいていないのか、ニコニコしながら話し出す。
「ローズ家が安泰だった頃、君は知識と教養が豊富な才女だと社交界では有名だったそうだよ。だから、君の社交界デビューを皆が待ち望んでいた」
「社交界デビューだなんて……私は前王妃様のお誘いを受けたので出席したまでです。本来であれば、一介のカヴァネスごときが参加していいものではないのですから」
華やかなこの世界は、自分のいる場所ではない。
だからどんなに彼の側にいたいと願っても、スヴェンの隣にいる自分を想像することすらおこがましいことなのだ。
「それにも驚いたよ。前王妃様は前王の毒殺を知って、城の人間にすら疑心を抱いていた。でも君は、あのアリシア様に会いたいと思わせた」
どうして、前王妃が自分に会いたいと言った経緯を知っているのだろう。考えてみれば、公爵といえど前王の死の真相を知っているなんておかしくはないだろうか。
王族お抱えの医師は病死と診断したはず。それをなんの迷いもなく毒殺と断言した。
ますますウォンシャー公爵という人間がわからなくなり、不信感は増長していくばかりだ。